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3か月間公理的集合論入門勉強会の振り返り ー参加者の感想まとめ付きー

去る2019年1月6日から3月31日の毎週日曜に大阪のなんばにて裏難波大學主催で公理的集合論入門勉強会と称した勉強会を運営してきました。
本当は終わった後すぐに記事にするつもりでしたが、様々な用事や新しい生活(主に博士課程へ進学したこと)に慣れるのに忙しくなかなかまとまった時間にエディタを開くことができませんでした。
あと23時を超えると(早ければ19時くらいから)お酒を飲みたくなるので、なかなか筆が進みませんでした。
GWに入った今、一気に書き溜めていた下書きをまとめていってます。
長期に渡る対外的な勉強会の開催・運営は私の中での初めての経験でしたので、しっかりと振り返っていきたいと思います。

 

イベント概要・活動記録


どのような内容を扱ったのか、またどのように進んでいったのかは以下のリンクから見れる活動記録PDFが参考になるかと思います。

 

https://www.dropbox.com/home?preview=report_and_rule.pdf


これは毎回終わるたびに更新し参加者含めて一般公開していました。

予備日を設けているのは、その当時入退院を繰り返していた祖母関連の用事でどこか1つは休まざるをえないと考えていたからです。
事実お医者様から「そろそろ」と聞いていて、そしてそれが的中し、1回法事でお休みすることになりました。
また私自身が酷い風邪を引いてしまったのもあり、プラスもう1回お休みしました。

 

動機・目的とその結果


動機も上記PDFには記載していますが、やっている間にその動機が具体化したもの、そしてそれを意識した取り組み・行動があったので改めてまとめなおしてみます。


動機1つ目:院試対策


これは上記活動記録にも書いてありました。
この勉強会開催中の2月中盤に大学院試験があり、試験科目は数学と英語だけ。そして数学は筆記試験ではなく、修士時代を含めた自身の研究内容を在籍教員たちの前で30分間で発表する、つまり修論発表会のようなものでした。
修士論文はいつもTwitterで呟いているような「囚人と帽子のパズル」の無限化を扱いました。
なので修士論文の範囲内でも帽子パズルの内容を思い出し、また修論発表会のような専門家の質問に答えられるようにならなくてはいけません。
というわけで、扱う内容に帽子パズルを含めることにしました。
またやる前から、この帽子パズルを集合論の導入の1つのツールとして使えないだろうかと薄々ですが考えていたのもあります。いずれ「帽子パズルから学ぶ素朴集合論」なんて集中講義とかやれたら面白そうだなとか妄想しております。
一番素朴な有限の範囲内の帽子パズルは論理的思考のみで解けます。
そこからスタートして無限に拡張した際に、いかに集合論が囚人たちの必勝戦略構築に役に立つかを上手く説明できれば興味を持ってもらえるのではと。
なので数学化した帽子パズルを数学初学者に説明する経験を積むための良い機会にもなりました。
この目的意識のもと、帽子パズルのテキストや私の過去の勉強ノートを参考にしながら、ほぼ全会に渡って発表していきましたが、いかに修士時代の自分が帽子パズルについて理解できていないか、また証明に隙があるか再認識しました。
本格的に研究されだしたのも21世紀あたりからと比較的新しい分野で、まだ日本語での本格的なテキストも存在せず、おそらく研究室活動で扱ったのも日本ならば私一人です(別にそんな状況自体は珍しくないけど)。
その中で、その議論に対して正確にツッコミをいれてくれる存在も少なく、修士論文を今見てみるとかなり理解不足だったと感じました。
もちろんそれ自体はこれから進学しようとする自分にとって非常に良い経験なのですが、1つかなり冷や汗ものの出来事がありました。
修士論文では、いくつかテキストや論文にある定理を拡張したわけですが、当然自分よりはるかに優れている数学者が残した重箱の隅にはそれなりに理由があるはずです。
そんな重箱の隅を自分でうまくつつけたと思って書いた証明でしたが、勉強会の発表中にその証明が間違っている可能性に気付きました。
既にある程度の査読などを通り出版された論文を元にした証明が間違っていたならば、間違えた原因はおそらくこちらにあると推測できますが、今回証明が間違っていると気づいたのは、自分が証明できたと思っていただけの定理の証明。
なので本来そのような拡張はすることができず、数学者たちは「拡張しなかった」わけではなく、「拡張できなかった」のではと疑うのは当然だと思います。
そのことに発表中に気付いてしまい、とりあえずは予習してきたテキストに載っている証明を中心にやって、その日は終了し、その日参加してくれていた大学院時代の同期の人と残って議論しながらもう一度証明を一からやり直してみました。
おそらく結論、つまり自分が証明できたと思った事実は間違っていませんが、論文に載せた証明は誤解を招きやすいものになっていることが分かりました。
その証明を元に予習した自分が、その通りに誤解して証明してしまった感じです、3年前の自分にやられてしまいました。。。
もちろんきちんと証明できていることの確認はもう一度博士課程のどこかですることになりますが、とりあえず自分の中で間違っていないと分かって一安心でした。
参加者からすれば完全に温度差があった出来事だと思いますが。。。。
ちなみにそのことをTwitterにて呟いたところ指導教官であった先生(Twitter上で相互フォローになっているので)から論文の確認不足を謝られてしまいました。。。
そんな意図で発言したわけでないにせよ、そのように捉えられてしまって仕方なかったなぁと。
しかしここで「修士以上の研究内容については自分自身で厳密性の確認を行うしかない」ということを再認識しました。
先に述べた通り、日本にそんなに相談相手がいない以上、その証明があっているかどうかの最終防衛ラインになるのは指導教官ではなく自分です。
そして自分はそのような状況をどうやら楽しめるということに気付きました。
責任もめんどくささもあるものの、日本における帽子パズルの記法や定義のデファクトスタンダードを作れることの楽しさもあると思います。
この出来事から証明を見直す技術がもう一段回高まったと思いますし、そういった意味では(まぁ発表者なので当たり前ですけど)今回知識以外の面で一番数学的に得るものがあったのは自分かもしれません。
ここまでのこともあってか試験では何一つ引け目を感じることなく発表することができました。

 

動機2つ目:インプット力強化

名前がダサい。。。ようは自学自習する能力を鍛えたいということです。
この勉強会は13時から大体18時30分くらい(1番長いときで20時30分)まで、休憩の合計時間は1時間くらいでした。
しかし別の記事に書きましたが、同じ日曜日の10時から12時までくらいで位相空間論自主ゼミでも発表していました。
つまりこの時期の日曜日は大体6時間から8時間くらい発表してました。
それを知っている人からは「それを毎週やると、発表はともかく3つ分のテーマの予習時間をとれるのか?」と言われてました。
この時期の自分がやるべきことって祖母の介護の手伝い・法事や週に一度の立ちのみ屋お手伝い・週に何度かの大人向け数学教室くらいで時間はとりやすかったです。
また試験勉強もあったわけですが、先に書いた通りこの勉強会がそれを兼ねていたため、この勉強会の予習以外に取り組むことは普通の社会人や学生に比べて少ない状況でした。
発表するかどうかは別として博士課程ともなれば毎週8時間くらい話せるような知識の吸収を出来なければならないと(勝手に)(個人的に)思っていて、この勉強会はあえて自分に負荷をかけることでそのような勉強量に自分を慣らしていこうと考えたからです。
最初はなかなかしんどかったですが、後半になってくるとペースがつかめてきてある程度余裕を持ちながら進めていけたと思います。
まぁこれ以外の数学イベントに参加・主催したり、予習以外の数学に手を出す余裕もなかったので、この経験で自分のキャパシティーについては把握できましたし、今後の学業と裏難波大學の活動の両立のための参考になると思います。

 

動機3つ目:長期的な勉強会運営経験を得たい


今まで単発のプレゼンイベントや交流系イベントの開催経験はありました。
また自主ゼミも1年にわたってやりましたが、あくまでクローズドな形で進行もマイペースだったため、まったく知らない人にシラバス的なものを提示したうえで進めていくような勉強会をやったことはありませんでした。
以下の記事に書いたように、研究者の方が試行錯誤して授業計画を組み立てて進行していく様子に感銘を受け自分もやってみたくなったというのが理由の1つとしてありました。

 

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もう1つは自分なりにイベント開催のノウハウをまた違う形で身につけたいということです。
学問を扱うようなイベントについて多少なりとも経験が増えてきて、そういったイベントの参加者・興味をもつ方は「深く学ぶこと」「浅く学ぶこと」「学問関係者との交流」の3つが、個人個人異なる配分で混ざっているのではないかと思いました。
今まで自分が他のイベントに行って次回も行きたいなと思わなかったとき、その会が提供できるとしていたものの比率とこちらが予想した比率が自分のものと違うかった時ではないかと考えました。


例えば「深く学ぶこと」ができると宣伝しつつ入門書レベルで終わってしまったり、「浅く学ぶこと」といいつつ初学者向けでなく難しい内容が多かったりとか。
もちろん難易度調整の難しさはいやほど分かるので、そこでミスマッチがあっても今ならそこまでなんとも思いませんが、色んなイベントに参加しだした当初の自分は困惑しました。


交流に関しては、運営が丸投げ、つまり懇親会の場所だけ用意して後は勝手に盛り上がってくださいみたいな形だったり。
それだけならまぁ精神ポイント消費するけどこちらから積極的に話しかけていけばいいだけなんですが、すでにある内輪で絡むばかりで、運営もその中に入ってしまってどうしようもなかったときは身内の打ち上げに懇親会費とるなと思いっちゃいました。。。これは数学系イベントであった話ではないですけど、ダメな懇親会として参考にしました。


もちろん会や勉強会を開く目的は様々でこちらが対象外だった可能性は大いにあるのですが、宣伝している部分に関しては納得してもらえるようなイベントは開催できないものかと考えてました。
自分の過去を振り返ると「浅く学ぶこと」「学問関係者との交流」を理念においたイベントは開催してきましたが、「深く学ぶこと」をメインにしたイベント、すなわち勉強会は開催したことなかったので挑戦したかったというもう1つの理由があります。
すなわちここで身につけたいノウハウとはそういったものになります。


しかしイベントを始めた当初はその3要素とかについて全く考えておらず、最初の自分のイベント説明の仕方では残り2つの要素に期待を持った方も参加申し込みしているのではと感じました。
なのでイベント開始時に活動記録に書いたような開催目的を明確に伝えた上でスタートし、他の要素はどのように補完していくかはやりながら考えることになりました。
まず「広く浅く」に関しては集合論・数理論理学に対しては参考テキスト以外にも初学者が興味もってくれそうな文献の紹介で補いました。
たとえば集合論の歴史が知りたいならコレ、選択公理について知りたいならコレ、そもそも論理学についての入門書が知りたいならコレがおススメですといった具合に。
そして帽子パズルに関してもパズルとして興味を持ってくれた方には、帽子パズルが載っていて日本語で書かれているものを紹介したりしました。
ちょうど2018年の数学セミナー9月号で帽子パズルが取り上げられたことがあったので助かりました。
ちなみにそのパズルも無限化することが可能で、無限化したものは無限帽子パズルの中でも有名な定理になっていて、帽子パズルパートにてきちんと証明を発表することも出来たので良かったです。


そして「交流」という要素については徐々に取り組んでいきました。
もともと最大10人という少人数に設定したのは、私が顔を見ながら発表できる限界がこれぐらいだろうと予想したからです。
「入門勉強会」と称しつつ一部の初学者を超えた方(3人ほどいたので)に合わせてしまえば台無しなので、ノートをとっている様子などから疑問をもっていそうならばこちらから質問あるか聞いてみたりしてました。
また初日に突発的な懇親会を開けたのもあって(これは参加者の方の提案で)個々の数学勉強歴も把握していたので、なるべく初学者にターゲットを絞りながら質問の有無を伺っていました。
これも人数が多くなってしまえば記憶力のない自分にとっては難しいことだったと思うので、その点に関しても今回は良かったと思っています。
そしてそれくらいの少人数になったこととメンバーが固定されていたことで、他の参加者にとっても交流はしやすかったと思っています。
今回情報共有の方法としてSlackを導入してましたが、勉強会以外でのオンラインでの交流もできたと思っています。
当初は最初自己紹介だけ済ませて、あとは最終回だけやれば交流面に関しては大丈夫だと考えていましたが、
勉強会初日に参加者の提案で懇親会がありそれは6人で行きましたが、全員とまんべんなく話すには少し多い気がしたこともあって、懇親会もただ開くのではなく、2回に分けて少人数でやることにしました。
参加者の中には勉強会以前からの知り合い関係の方もいたので、その2人は懇親会に同時に参加する必要はあまりないのではないか?と。
なるべく初めて会う人と話せた方がせっかくのイベントとして意義があると考えて、メンバーの組み合わせもなるべく知り合いが被らないようにして調整しました
(まぁそもそも参加可能日を聞いてみたら大体そのようになっちゃったんですが)。

ともあれこれら3つの動機が活動中にも自分の中で変化・具体化されながら進んでいった感じになります。

 

スポンサーについて


裏難波大學の活動は私の立ちのみ屋という場所代がかからない場所を使っていたことから、今まで参加費などについてはそこまで意識する必要がありませんでした。
しかし上記の動機から立ちのみ屋には入りきらない人数での勉強会を進学する前にやってみたいと思いがあったので、今回は例え私の講演料が0円だとしても場所代を人数割りしたものだけはいただかなくてはいけない状況でした。
しかし全員が全員、3か月間の日曜日が毎回空いているとも限らないわけですから、会によって参加人数が減ったことで参加者たちの負担額が増えるのもよくないなと思っていました。
その折、2018年4月より始めていた裏難波大學活動の1つ、位相空間論自主ゼミの参加者の方の所属企業「メダカカレッジ」様(HPはこちら http://www.medaka-college.com/)から出資をいただくことになりました。

位相空間論自主ゼミについてはこちらをどうぞ

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せめて場所代だけも浮かすことができればと思っていたので、全会の場所代に相当する金額をいただいたことで参加費を500円に固定することができました。
ちなみに500円にしたのは、無料ではさすがに良いイメージは持たれないと思ってしまったので場所代は必要ないものの頂戴することにしました。

今回出資にあたっていくつかの条件(といってもそこまで特別なものはなかったです)があったわけですが、やはり一番意識しなくてはいけなかったのは「数学的にきちんとした勉強会にしてほしい」という条件でした。
どのような結果が出れば「数学的にきちんとした」勉強会になるかですが、それは参加者の参加前の数学に関する知識・経験によって分けなくてはいけないと考えました。
単に参加者全員の知識を増やすだけならば参加者の知らなさそうな知識を詰め込みまくれば良いだけですが、それによって満足するのはある程度の事前知識・経験を持った人だけになる。
しかし初学者にとって優しい内容にしすぎれば先のような人は知識的にも経験的にもちょっとしか満足しない。
よって扱うテーマを「公理的集合論入門」「無限帽子パズル」の2つにしたことを活かし、集合論パートを初学者向け、帽子パズルをそれ以外向けに位置づけることにしました。
初学者向けではどのようにするかというと「数学系の人がどのように数学を勉強しているかを伝えること」を1番の目標に設定しました。
おそらく過度に難しくしたり、数学をある程度勉強した者同士で通用する証明の省略(「あとは帰納的にやればよい」とか「定義から明らか」とか)を見せてしまえば、一般の数学に通用しないような印象を与えかねないと思いました。


これまでかなり短い時間で門外漢相手に数学を扱ったプレゼンをすることで「数学とは○○なんだ(○○には哲学とか芸術とか宗教とか非数学的な分野が入る)」という間違った印象を与えることに少なからず加担してきた身として、今回のようにスポンサーがつき、かつ長時間の参加者のお時間を頂戴できるような機会では決してそのようなことにはなってならないと。
何度も言いますが、個人個人が数学をどのように感じるかに対して、それに賛同できなくとも放置はすれど攻撃をするような数学者は少ないと思います。
例えば誰か門外漢が「数学は芸術」と捉えていても、そう捉えているうちは数学的な新しい発見は極めて難しく「遠回りしているな」くらいしか思わないはず。
だから当の本人から「どうやったら数学的な証明ができるようになるか?」を相談されない限りは「数学が芸術」だなんて思っていてもなんとも感じない、人格者ならば攻撃までもしないとはず。
問題は自身の影響力・拡散力を顧みないで、不特定多数に「数学は○○」だなんて思わせるような活動の方です。
その行為によって当の本人が数学に向かって遠回りするだけでなく、それを信じてしまった人まで遠回りさせてしまう。
いや、それでもなお数学に向かってきてくれるならば、その誤解もいつかは解消されるかもしれない。でも「数学が芸術なのか、じゃあ私には合わないからいいや」となってしまえば、もしかしたらきちんと数学的方法論を身につけたならばその人が興味を持つような数学・その周辺分野の狭い一分野が見つかったかもしれない、そんな可能性を消してしまう。
「数学に関わる発言にそこまでのことをいちいち考えなくてはいけないのか」と言われればそれまでですが、これはそういう活動をに続けていきたい自分が持っておく意識だと思っています。
単なる勉強会にここまで考えたのも参加者一覧を見たとき、ほとんどが非数学科出身かつ文系出身、つまり理系すらほとんどいない状況でした。なのでいつものように勉強会を進めてしまえば、そもそも非数学系にとって楽しくないだろうし、楽しくなければ今後の数学の勉強を遠回りさせてしまうような印象を与えかねない。

ちなみにこのように考え方がまとまったのも勉強会期間中のツイートが伸びたことがきっかけになっています。

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集合論パートでは証明を時間が許す限り丁寧に行いました。最初はそれこそ量化子の説明から。量化子そのものが数理論理学の研究対象であるわけですがそれは2章で扱うことを触れながら、最初は単なる略記として使えるように・読めるようになってもらえればと思いました。
そのための参考文献も提示して、これからの議論をするさいにそのような数学の証明に現れるような用語の使用に慣れてもらえればと。
実際にその本を購入した方もいたようで、別に販売促進活動をしているわけではありませんが、数学の証明を読むにはそのような知識が必要なんだと理解したゆえの行動の表れとしてこちらとしては良い結果だと思っています。
このような形でスタートさせたからか、3回目くらいからは勉強会内で証明を進めるスピードも速くできるようになり、こちらとしても多くの内容を扱えるようになって良かったです。


帽子パズルパートでは、帽子パズルのような対象であっても数学者が本気で取り組めば、いかに面白く、公理的集合論の様々な概念を応用することで奥深いテーマになるかを伝えるよう努めました。
ここでいう面白さとは、私が感じる面白さのことです。
私が感じている帽子パズルの面白さとは、有限なパズルならば究極的には計算機を用いて必勝戦略を探すことができるの対し、無限なパズルでは囚人が無限にいるから面白いのではなく、この場合だと戦略が無限にあるため計算機でも必勝戦略を見つけるのは難しい、なのできちんと戦略を定義しそれが必勝であることを証明する必要がある点にあります。
囚人が無限というありえない状況ながらも数学的に必勝であることが証明できる、そこに私は面白さの1つがあると思います。
またその戦略を構築するにあたって、公理的集合論の様々な話題が関わってきます。選択公理連続体仮説・基数不変量などなど。そして数理論理学的手法を用いれば、そのような戦略の存在性がある仮定の下(例えばZF+従属選択公理)では証明不可能であることだって示せます。
私が修士時代の研究した流れを踏襲しながら、どのように問題意識をもって数学を楽しんでいるか、ある帽子パズルに関する数学的主張があったときどのように議論を進めていくか、それを伝えられたのではないかと思います。

この説明をしっかりするために帽子パズルノートには「帽子パズル研究の第一歩 」という節を書くことになりましたが、結構楽しかったです。
またこのあたりは少なくいた数学経験者の方たちにも初歩を飛び越えた内容で満足してもらえたと思います。

とくに連続体仮説を扱った帽子パズルの話はウケもよく発表していても楽しかったです。
無限帽子パズルを扱った日本(おそらく)最初の勉強会ですから既知の事実というのもなく新しい発見は初学者でない方にもあったと思います。

 

最終回の3月31日は新生活前ということもあって参加者は2名のみでした。

参加者の1人からは夏休みシーズンとかにやってくれたら全部参加できたのに!と言われました。
そのような人数になることは事前に分かっていたため、最終回手前でそのお二人に集合論関連で聞いてみたい話題について聞いておき、それを扱った発表をしました。
1つは強制法について知りたいとのことだったので、どのようにして証明を進めるのか、そしてどのような予備知識があれば実際に数学書で学ぶときに楽かを解説しました。
そしてもう1つは整数論内の未解決問題と絶対性についての話題でした。
ちょうど最終回の前日に私が京大での上記のテーマを扱った勉強会に参加していたので私としても勉強したことをすぐに復習できて良かったです。
そんな形で各々が知りたかったテーマを扱えたことは少人数ゆえの良さだったと思います。

 

私はこのように考え、それを達成できるよう行動したわけですが、参加者にそう思ってもらえたどうかに関しては、次の感想集を見て頂ければと思います。

 

参加者の方々のの感想集


勉強会修了の3週間ほど前から、参加者全員に感想文の提出をお願いしてました。
このとき、この感想文は匿名でこのような形で公開されることは伝えてありました。
本当はアンケートを作って数値評価をしようか思ってましたが、今回のような少人数ならばアンケートという形式にあわせずに各々が思ったとおりに書いていただいた方がより良い振り返り材料になると考えました。

参加者のうち数人は勉強会以前から親交があり勉強会終了前後の時期に直接感想を聞いたためここには感想は載ってません。
また順番に特に意味はありません。
また誤字脱字を訂正し・私へのお礼などの部分は割愛しています。
でも数学的に間違っている部分はそのままにしています。
別に晒しあげようとかではなく、私の伝達ミスを明らかにするためです。
また有難いことに改善点を提示して頂いた方もいたので、それもそのまま載せています。これは今後私以外の同様の勉強会をやろうとする方の参考になればと思って公開しています。もちろん私の反省材料でもあります。

 

1つ目


「最初は大学レベルの講義聞いてみたいって動機と帽子パズルオモシレーじゃんぐらいの気持ちで入りましたが、正直面食らいました
無限に可算、非可算、連続体仮説集合論の公理
自分には呪文でしたが授業と自分の勉強で呪文の読み書きは理解出来るようになったのは収穫でした
まだ入り口にも立ててませんがかろうじて平仮名は読めるようになったのと数学の議論と理論の組み立てがどのように行われてるのか分かったのが自分の収穫だったと思います」

 

2つ目


「今回の勉強会に参加する以前から集合論には興味があり,自分で素朴集合論の勉強を進めていました.
しかし公理的集合論は難しいイメージがあり,自分だけで勉強するには敷居が高いため,いつかは取り組んでみたいと思いつつもなかなかきっかけがありませんでした.
そんな中,今回の勉強会の存在をTwitterで知り,いい機会だと思い参加することにしました.
数学を専門的に学んでいたわけではないので,ついて行けるかどうか不安な気持ちもありましたが,意外にも公理的集合論の内容を理解することができ,楽しく勉強することができました.
毎回,丁寧な導入とモチベーションの説明がされるため,いまの勉強が何につながっているのかを意識することができたので,目的をもって勉強を進めることができました.
また,抽象的な議論が難しく感じることもありましたが,適宜,図や具体例などを示していただいたので,理解を深めることができました.
勉強会は終わりましたが,証明の細部を確認しながら自分でもう一度復習し,今後さらに発展的な内容にも取り組んでみたいと思っています.」

 

3つ目


「私は初学者ですが、一方通行の発表や講義ではなく、置いていかれる不安の少ない安心できる勉強会でした。
時間が長いので説明の詳しさが大学の授業よりも丁寧に感じられ、発表者がひとつの事柄を説明するたびに質問を受けつけてくれるので、理解できていなかったことを多く理解できたという満足感は高いものがあります。
また、slack上で参加者同士でもパズルに関する面白い話題が上がったり、知らなかった情報のやりとりがあったり、理解のしかたを確認したりと、勉強会の内容についてさまざま話せるのが放課後感がありよかったです。」

 

4つ目


「勉強会の今後の発展を願って思い付くままに以下感想をつづります。
感想は勉強会の形式と学習内容についての二つから成ります。
1.期間と時間について
集中勉強会は1月初めから3月末までの期間、一日当たりおよそ6時間実施されましたが、勉強内容の量を考えればこれより長くてもよかったと思います。
期間の短さとは反対に一日の勉強時間が長かったので期間を6か月、一日4時間くらいにすればより参加することに抵抗がないでしょう。
期間が長ければ初心者にとってじっくりと復習できる時間が確保できると思うのです。

2.講義の進め方について
理論や証明の全体像、モチベーションについての言及が各「セクション」のはじめにあったのが非常に良かった。
初心者がその理論や証明を理解しにくいのはそれらについての問題意識が希薄だからです。なぜその理論が必要なのか、その証明が何を目指しているのか、が分かりにくいからです。
全体像、モチベーションへの言及のおかげで理論や証明についてのイメージ直観をより容易に構築することができました。
また、帽子パズルでは「ノート」を毎回更新して提供してくれたので復習に大変役立ちました。
話だけ聞いているだけだったら、その場で理解できることしか残らないのです。
「ノート」で復習することによってイメージや直観を深化させたりふくらませたりすることができます。そして、その場ではなかった「気付き」も確保することができるのです。

3.集合論の内容について
順序数の作り方(拡大の仕方?)の理論と基数の作り方の理論の間にミゾがあるように感じました。
つまり順序数の理論の方は「後継者関数」でωまでやって、そのあとは基数理論の領域からℵ1とかℵ2の濃度を借りてきて持ち込む。
基数の理論の方は、ひとつには冪集合の基数についてのカントールの証明があるにはあるが、いわばちょっと、天下り式により大きな基数を考えていくといった具合であるように感じるのです。
「後継者関数」ではなるほどωの濃度まではいけるけど、どうも「連続体」の濃度以上にいくためにはもうどうしても「冪集合」に頼らなければならない。
まあ、こんなところが順序数の算数と基数の算数の構成の仕方がちがっている原因なのかもと思ったりしています。
ここらあたりは自分なりにこれからさらに考えてみるつもりです。
4.帽子パズルの内容について
帽子パズルでは有限な集合で成立している定理を無限な集合へと拡張するのが一般的なパターンのようです。
その「拡張」の正当性を担保するのが「parity function」だったり、「群構造」だったりするわけでこれらの発見は帽子パズルという領域に対し重要な洞察となっています。
そのような重要な洞察がいくつもあったけど、わたしとしてはすこし「人工的な感じ」はしますが、

Theorem 2.3.2.
|A| = (k−1) + k^(k^(k−1)) , |K| = k , V : complete bipartiteで分割のサイズはk−1とk^(k^(k−1))となっているような同時発言型パズルにおいてminimal predictorが存在する.
という定理が一等気に入っています。
当たり前のようであってしかも、なにか帽子パズルの思考に本質的なところがあるように感じるからです。
ちょっと、整数論の「鳩ノ巣原理」みたいなカンジがあります。
帽子パズルと集合論の関係に関してもうひとついえば「同時発言型」パズルと「順次発言型」パズルの「集合論的取扱い方」のちがいについてさらに考えれば「本質的な差異」を統一的に取り扱う観点が発見できるかも、と思いました。

5.その他
たとえば順序対の定義にかかわって、 (x,y) ={{x},{x,y}}と定義するというテクニックのよさを鑑賞したり、カントール対角線論法というアイデアについての問題点をとりたてて議論することも面白いのではないかと思っています。
数学のアイデアやテクニックのディーテイルについて鑑賞したり議論したりすることはその領域の問題状況を把握するうえで効果的だと思うからです。
ですから講義のなかで上のような事例についての言及が少しあればよかったかな、と思いました。

6.勉強会の理念について
数学の「ええ、なんで?」「あっ!そうか」のこころは俳句や和歌、和算に通底する日本のモノの「アッハレ」のこころへと繋がるものがあると思います。
日本の文化だけではなくひょっとすると「印象派」の絵画や音楽にも通じるかもしれません(これはちょっといいすぎかも)。
数学であたまとこころを鍛えればその人はそれだけいっそう「アッハレ」を発見しやすくなり、人生を豊かにすることができます。
そういう意味で裏難波大學において数学やその他の文化に接することその人にとって大層意義のあることです。
わたしはこの集中勉強会を「集合論勉強」の一つのマイルストーンとして今後キューネンのset theoryに挑戦します。目指す頂は「巨大基数の理論」です。
この勉強会に参加できて本当に良かった。」

 

5つ目


「大学数学を全く知らない状況での参加で理解できるか不安でしたが、後半になるにつれ理解できるようになっていきました。
正直なところ、第1回〜2回くらいまでは、「勉強会の難易度が自分に合っていないために、得るものが無いまま終わるのではないか」という思いがありました。
しかし、回を重ねるにつれ少しずつ数学の勉強の仕方がわかるようになり、楽しめるようになりました。
自分が証明を追っていてつまずく時は、証明中に用いられている既習の語や記法を理解できていなかったり、まだ馴染んでいないのが原因なのだと気づいたのが理由の一つだと思います。
証明のどこかのステップでわからなくなったとしても、「時間をかければ理解できるだろう」、「この記法にもう少し親しめば理解できるだろう」などと思えるようになりました。
勉強会参加前に比べると、教科書の読み方も進歩したと自分では思っています。
述語論理だけを学んだ状態だったので、数学における論理式の使い方に全く馴染みがなく、当初は論理式で書かれた公理を何度読んでも何が書かれているのか全くわかりませんでしたが、今ではそれなりに把握できていると思います。
実際、勉強会参加以前はイプシロンデルタ論法による極限の定義の論理式を見ても何を意味しているのか全くわからず、自然言語で書かれたものと見比べても駄目でしたが、今では「自然言語で書かれたほうが長くてわかりにくい」と思えるようになりました。
強いて改善点を挙げるとすれば、時間の制約があるためどこまでできたかはわかりませんが、新しい定義や記法が導入された時に具体例をもう少し混じえて説明してもらえれば、自分のような初学者には理解の助けになったかと思います。
参加者の層が雑多なため難易度を下げすぎるわけにはいかないという制約の中で、自分のような初学者にも進歩できた部分があったので本当に良かったです。
ありがとうございました。」

 
私の感想


もう十分に感想のようなものを書いてきたような気がしますが、まだまだ思ったことを書いていきます。
私自身学んだことと、今後について書きます。

今回たくさんの学びがありました。
それを数学に関するものと、裏難波大學に関するものに分けて説明します。


・数学的なもの

 

連続体仮説の否定のモデルを作る強制法(Cohen forcingのこと)そのものは修士1年の時にセミナー活動を通して勉強しましたが、
なかなか自分の中でのしっかりとした理解というのにはたどり着けませんでした。
そうならなかったのは強制法そのものの理解もあるし、数理論理学そのものの知識も不足していたからだと思います。
そんな自分にとって2018年は強制法を学びなおす絶好の機会に恵まれた一年でした。
数学カフェの公理的集合論回(はじめて東京に行く機会にもなりました。もう4列シートの夜行バスには乗りません。。。)、九州大学での集合論集中講義にこっそり参加(はじめて福岡に行く機会にもなりました。)、母校での強制法を扱った授業にこっそり参加と3つもある程度長時間にわたる勉強会がありました。
これに参加してみて理解力はある程度上昇したものの、やはり集合論の基礎がまだまだ足りないと感じていました。
そしてそのために今回の勉強会の参考テキストのようなものをじっくり読むことですが、いかんせん帽子パズルが楽し過ぎて進まない。。。
ならば位相空間論自主ゼミのように自分を発表する立場に追い込まねばと考えていました。
今回時間的な都合もあって、集合論と論理学の基礎を扱った2章はあまり発表することはできなかったのですが、予習自体はしていたので幾分か理解は進みましたし、やはり自分はこのようなスタイルでの学習が一番効果的なんだとも分かりました。
今現在、後輩の修士学生の強制法ゼミの世話役みたいなことをしていますが、ある程度後輩たちの質問に答えられているのはこの勉強会があってのことだと思います。

帽子パズルに関してはそれこそ上記に書いたような論文間違えているかも騒動(今後たくさんあるんだろうな)があったことでかなり理解力や説明力があがりました。
またこれが終わった後の自分の変化として、帽子パズルに関する話題ならば準備なんかなくっても3時間4時間も話すのが可能になっていました。
つまりその中の理論や議論の進め方が自分の中に染み込んだ証だと思います。
そして自分が自信を持って話すことができるテーマができたのは非常に嬉しいことでした。この勉強会のために作り始めた勉強ノートを1つの出発点にして、より多くの面白い帽子パズルの情報を発信していけたらと思っています。

 

・裏難波大學に関するもの


今回が今まで主催した中で初めての対外的かつ長期的な勉強会でした。
勉強会の参加する人たちの目的が「深く学ぶこと」「浅く学ぶこと」「学問関係者との交流」の3つにあると捉えて、それぞれを参加者ごとの求める配分で上手く与えていければ、より良い勉強会になると仮説を立てました。
しかし人数が多くなってしまえば、個々の参加者に目を向けることが難しいので、私一人で準備から本番までやるようなものならば今回のような人数・規模が最適・限界だっとと思います。
もちろんミスマッチを無くすため参加者の事前知識や数学的経験を明確にすれば、そういった目配りも多少は減らすことができるかもしれませんが、今回のように「誰でもOK」な形の中では良い勉強会だっと思います。
つまり参加基準を明確し、明確なシラバスを作り、それに沿って予告通りに進行すればもう少し規模の大きい勉強会もやっていけるかもしれません。

 


今後について

 

私自身はしばらく自分自身の学業で忙しそうなので、コンテンツ提供側に回るのは難しそうというのもありますが、数学以外の学問(今考えているのは哲学)でも今回のような長期にわたる勉強会をやりたいと考えています。
もちろん私は数学においてさえ狭い範囲でしかコンテンツを提供できないので、それができそうな人にお任せすることになります。
今回は運営、進行、コンテンツ提供と全て1人でやったわけですが、その経験を活かして、運営・進行の面からサポートしたいと思います。
また、自分の専門の部分で私自身にも学びや発見があったように、コンテンツ提供者の方にも益があるような勉強会を作りたいです。