科学哲学がテーマの勉強会運営のお手伝い
このたび、私が代表を務める(といってもメンバーは私1人ですが)裏難波大學にて、
これまでは自主ゼミにしろ勉強会にしろ数学ばかりでしたが、今回は哲学、とくに科学哲学、その中の「線引き問題」をテーマとした勉強会を週に1回、計6回に渡り開催しました。
今回は企画をした私にとっても裏難波大學にとって初めてなことが多い勉強会でした。
初めてだったこととしては
- 今まではコンテンツの提供、つまり発表者や講師といった立場は全て私だったが、今回は知人に依頼したこと
- 上述した通り、数学以外のテーマを扱ったこと
- 少額ではあったが、コンテンツ提供者に謝礼を渡せたこと
の3つです。
これらに触れながら
- 経緯・活動報告
- 私の感想
- 講師を担当した方の感想
- 今後の展望
の4つについて書きたいと思います。
コンテンツを提供してもらった、つまり今回の勉強会にて講師を務めていただい方は以降「Yさん」と書くことにします。
Yさんの感想は、当の本人に書いてもらい、こちらにコピペしたものになります。
ちなみにこの感想文はYさんの感想を受け取った後に書いています。
勉強会全体のテーマは「科学って何だろう」となっています。
各回の細かな内容や、Yさんについては告知用ページが詳しいのでリンクを貼っておきます。こちらも是非見て頂いて勉強会の様子などイメージしてもらえればと思います。
経緯・活動報告
最初に書いた通り今までは形式は勉強会・教室・プレゼン多々あれど、テーマは全て数学、しかも私自身が提供できる狭い範囲の数学だけでした。
それもこれも私が数学もそれ以外の学問に対してでも、他の人になかなかこの活動に携わってもらう決断が出来なかったからということに原因があります。
裏難波大學の営利的活動に関わる方には、専門性も大事ですが、それなりの責任感をコンテンツ全体に持ってほしいと考えたからです。
でも責任感を一方的に要求するだけではなく、それに見合ったフィードバック(お金や感想、そこからの指摘・助言や気づきなどなど)がなければいけません。
それらをお渡しする用意も、どのように仕組みを作るのかもそこまでが考えられていませんでした。
また、今回依頼したYさんも含め既に裏難波大學の活動に関わってくれていた方は、この責任感については問題ない、むしろありすぎるくらいだと考えていたので、それに見合うフィードバックがあるようなイベントを作れるのかどうかの自信がなかったです。
Yさんは大学学部生3年の頃からの知り合いで、初期から裏難波大學の活動にも興味を持っていただいていて、いくつかのイベント・勉強会での参加者でもありました。
なので、私の活動方針・理念なども常に共有する機会がありました。
活動記録の方が詳しいですが、Yさんは哲学、特に分析哲学が専門であり、現在大阪の大学院の博士課程に在籍されています。
つまり彼にコンテンツ提供を任せるということは、裏難波大學として初の数学以外のコンテンツになるわけですが、そろそろそういったものにも挑戦してみたかったことも依頼した理由の1つになっています。
この依頼をしたのは2019年4月くらいであり、大人向け数学教室という営利的なコンテンツの始動から半年以上経っている頃でした。
つまり私自身、学問をサービスとして提供し、それに対して謝礼を頂くということを少なからず経験した状態でした。
そこからの学んだことは、専門性を活かした活動であればあるほど、そして参加者のことを考えれば考えるほど、それなりにきちんとした額の謝礼をもらわなければならないということでした。
今まではコンテンツ提供者が私自身であり、それ以外の企画・告知・運営・事後処理も含めて全て自分一人で完結していましたから、その仕組みは非常にシンプルでした。
しかし今回はコンテンツ提供は他の方に任せ、それ以外の仕事のほとんどはこちらが担当ということで、その謝礼の分配はどうするのか、そして場所選び、少なくとも大学に頼らない勉強会では一番ネックになる問題ですが、以前のイベント(3か月公理的集合論勉強会)の時は、数学、そしてそれに理解のある企業様からの出資がありましたが、
今回は頼ることができません。
なのでなるべく利益を得つつ、勉強会ができるだけの最低限のアクセス・施設を探す必要がありました。
なので、謝礼にしても、各参加者からの参加費をそれなりに大きくし、上記のような私にも分配されるように考えたのですが、考えれば考えるほど難しくなってしまい、
今回は私個人はボランティアでやって、参加費の合計から会場費を引いたものを全額Yさんへお渡しすることにしました。
もちろんのタダで労働力を提供するのは良くないとも思いつつも、実は今回、テーマ・内容についてはかなりこちらの意向を取り入れてもらえたので、私自身の勉強代と思うことにしました。
ただ完成した内容を見ると、値段設定についてもうちょっと考える余地があり、
今回は私自身のプロディース能力が足らなかったことを痛感しました。
今回、哲学をテーマすることは決まっていましたが、その中でも細かくどのようなテーマにするかは決まっていませんでした。
私自身学部生時代から科学哲学、そしてその中の「線引き問題」に興味があり、書籍は何冊か持っていたもののなかなか読み進めることはできないでいました。
Yさんは哲学が専攻分野ではありますが、その中の科学哲学は専門ではありませんでした。
自分としても科学哲学の話をそれなりに専門に近い(少なくとも私よりははるかに近い)方から聞ける良い機会だと思い、このテーマでやってもらえないかと依頼しました。
それを快く引き受けていただき、大学で実際に授業を受けるような楽しさがありました。
ボランティアでもいいやと思えたのも、自分が学びたいテーマにしてもらったことが大きいです。
あと意識したのは利益の最大化ですが、場所代はなるべく安くしようと考え、大人向け数学教室を通じて知り合った方から教えてもらった、イベント使用も可能な、とあるコワーキングスペースを使うことにしました。
数学の勉強会をやるには若干大きさ・設備が足りない印象ですが、スライドが映写できれば十分であるとYさんから聞いていたので、その場所をイベントで使う全6回分確保することができました。
この場所は本町に位置しており、駅からも近いです。
これによって参加費は1500円にしつつ、そのうち1000円をYさんに渡せることになりました。
何度も言いますが、もっとお渡ししたかったです。。。
活動記録はこちらからご覧になれます。
テーマの詳細、勉強会の内容などなど勉強会そのものについてもまとめてあります。
告知情報を見た方ならば、このそれぞれの勉強会の後に同じ会場にて別の裏難波大學のイベントを開催する予定がありました。
1つは交流イベントで、もう1つはプレゼンイベントです。
しかし会場の利用時間の関係で開催することができませんでした。
別日にするなど何らかの方法で開催することも考えたのですが、私自身の4月から始まった本業である学業の方も忙しくなり、この3か月はこの哲学勉強会(と大人向け数学教室)に活動を絞ることにしました。
今後もやっていきたいイベントの形式なのですが、しばらくは手が出せそうにありません。。。
私の感想
勉強会に参加した一参加者としての視点の含めながら、感想を書いていきたいと思います。
Yさんの感想文にもある通り、この勉強会の前の元ネタになったのが、2019年の1月から3か月間毎週日曜に開催した公理的集合論勉強会です。
これに参加者の1人としてほぼ全会を参加してれたのがYさんでした。
この勉強会、Yさんの知り合いの方も参加されていて、Yさん自身も含めたその参加者の様子から、私自身が設定した「非数学系の人に数学を勉強するとはどのような営みなのかを伝える」という目的を、非常に評価してくれました。
それについては、その勉強会後のあった際に「自分も哲学であのような勉強会をやりたい」と聞いていたので、これだけこちらの活動に対して理解のある人ならば、今まで誰かにコンテンツ提供を任せることを躊躇していた自分も、任せてみよう、いや任せたいという風に思えました。
もちろん学問的なイベントのコンテンツ提供者として、その知識量・勉強量・専門性の高さなどは大事ですが、それと同じくらい大切だと思うのは「参加者にこう感じてほしい・こうなってほしい」とどれだけ思えるかだと考えます。
いくら学問的に価値のある内容でも、単に「知ってほしい・面白いでしょ?」くらいの意欲では、同分野の人はなんとか納得させられても、異分野・初学者・門外漢な人に満足してもらうことは難しく、また謝礼を頂くことも、その参加者からより良いフィードバックをもらうことも難しいでしょう。
もちろんこういったことを私の中で考えるようになったのも最近の話です。
これをしっかりと意識しつつも、学問的に価値のある勉強会をYさんなら作ってくれるという確信のもと、お任せすることにしました。
勉強会の内容そのものについてですが、まず「線引き問題」が科学哲学において(一部の哲学者から)重要視、または興味の対象とされなくなった過程が知れたのは良かったです。
もちろん今でもこの問題に取り組む研究者もいると勉強会中に聞きましたが、その方たちも「線引き問題」の難しさを理解しつつも、
今の社会に合わせた動機を持っていることが知れました。
「線引き問題」がたどった歴史、その中で生まれは消えた(人気がなくなった?)考え方、そして何故消えたのか(もちろん「線引き問題」で役に立たなかっただけで、他の哲学・それ以外の学問に応用された例もある)を
時間の許す限り丁寧に解説してもらうことで、私の中でもかなり多くの発見がありました。
個人的に面白かった回は、初回のたくさんの疑似科学・似非科学の紹介するFeyerabendについての解説があった回でしょうか。
初回の方では、ある程度は知っているつもりでしたが、市民権を得ているか・認知度の高さを問わずたくさんの科学っぽくないものがあることに驚きました。
Feyerabendについては、ひと段落した折に、彼のやったことについてもう少し詳しく勉強してみたくなりました。
最終回ではYさんの専門ではない「線引き問題」という話題に対してどのような点で興味があるのか?さらにどのようなスタンスで学んできたのかを知ることができました。
これがこの勉強会で一番大事なことだったと思います。
(すごく時間はかかるし教えてもらうほど正しく理解できるとは限りませんが)ある内容について学ぶ(学べたと勘違いする)ことだけなら一人でもできます。
でもある学問について(今回は哲学)その専門家から、普段どのようにその学問に向かい考えているかを知ることは一人では絶対にできません。
私が先の勉強会でも無限化した囚人と帽子のパズルについて話題と、それに対して自分がどのように研究しているかといったことを多く盛り込みました。
無限帽子パズル自体がそもそも日本で研究しているのは私と指導教官くらいだと思われ、故にこれを内容にいれること自体希少で価値があると思いますが、さらにそれについてどのように研究しているかといった情報はさらに価値があると思います。
なぜなら通常そのような情報は研究者同士の雑談などでしか共有されない情報だからです。
なんらかの市民講演等でそのような情報を提示されることもありますが、そうなると時間制限などの理由でその学問について知識のほとんど伝えないままだったりします。
今回は5回にわたって知識を共有してもらい理解補助の議論もしたうえで、その学問への向かい方を知れたのは非常に有意義でした。
現在当団体の理念や活動方針を明文化しようとしてますが、その中で仮にメンバーを増やすならば、その人たちにある程度の科学に対するリテラシーを求めることが必要だと思っています。
それについての1つの方法論が、この科学哲学勉強会であり、この目的に向くのかどうか判断する良い材料にもなりました。
今後、ここで得た知識は単に私の知的好奇心を満たすためだけでなく、「科学をキチンと啓蒙する」という裏難波大學の今考えている目的にも十分に役に立つことだと思います。
上の方でボランティアでやる云々のケチ臭いことをダラダラ書いていますが、むしろそれ以上にもう少し自分からも個別に謝礼を出さねばと思わせてくれました。
故に他の参加者がどう思ったにせよ、今回提供して頂いたコンテンツは、私の想像以上の出来であり、後から参加費を変えるわけにはいきませんでしたが、
それなりの金額に最初から設定しなかった自分に落ち度があったと感じます。
ただ会場は少し老朽化していたので、使いやすさなども含めると仕方ない点もあったかなと思います。
やはり綺麗で使いやすければやすいほど会場費は上がるものなので、適切なバランス感覚は身に着け行きたいところです。
Yさんにとっても、色々と初めてなことが多かったと思います。
今まで同じ界隈の人たちとやる勉強会とは、参加者の様相という点でも、用意しなくてはいけないコンテンツの違いという点でも、そして謝礼がでる・それに伴う責任があるという点でも、違うことも多かったと思います。
これは謝礼がでないと、Yさんが「手を抜く」ような人であるという意味ではありません。
自分としては、自分と同じような経験をこの裏難波大學の活動に興味のある1人と体験してもらえたのは、そしてそこから得たことを聞けるのは、非常に価値のあるものでした。
今後の活動に是非とも活かしていきたいです。
Yさんの感想文
Yさんから頂いた感想文を誤字脱字くらいは訂正しましたが、ほぼ原文のまま載せます。
発表者が今回の一連の講座を引き受けたのは、裏難波大學のsoujiさんが行った3ヶ月間公理的集合論入門勉強会が面白かったことに影響を受けたのと、学問にかかわる勉強会がしたいというsoujiさんの話があったからでした。
最初は外部に公開する勉強会ではなかったので、これは大変なことになったと気づいたのは途中からでした。
まず講義をする内容についての全体的知識を入れるのに100時間ほどかけました。
それとは別に毎回の講義の準備に20から30時間ほどをかけました。
全体として準備時間に250時間ほどかかったと思います。
講座をするために本来必要な時間としては、桁がいくつか足りていない気がします。
今回の講座を行った2ヶ月間、勉強不足から来る焦燥感が常にありました。
この強い焦燥感は、講座が終わった今も消えていません。
今回の講座のきっかけとなったsoujiさんの勉強会では、数学科で行われている研究というのがどういうものかを見せるというコンセプトが特徴的でした。
それが面白いと思ったので、ぜひ自分でもやってみようと思いましたが、哲学では(あるいは私の能力では)どうやらそれは難しいという感じがしました。
哲学のテーゼを支える論証を理解することはもちろん大事ですが、むしろそれをどうやって反論するか、あるいはどうやって反論を防ぐかということを、実際に体験していくなかで身につけていくことのほうが、哲学で行われていることの中では大事な部分であると私は感じます。
その体験の部分を予備知識無しで提供するということはとても難しいように感じました。
ある程度の型と知識を身に着けていないと哲学で実際に行われている議論の体験にはならないと私は思います。
なので実際に議論を行ってもらうのではなく、議論を見ることでどういうものなのかというイメージを伝えるということを目標にしました。
反論で崩されない論証を構築するという作業は思ったより大変そうだという感じを伝えようとしたのです。
また、soujiさんの勉強会は入門書や入門講義では聞けない内容が入っており、それもできれば自分の講座で実現させたいと思っていました。
そこで、5回目と6回目で扱う1本の論文を理解するために、1から4回目で教科書的な知識を導入するという構成をとりました。
この目的のために話題を限定したので、告知文にも書きましたが、一連の講座は科学哲学という大きな分野全体のバランスのとれた紹介にはなっていません。
また線引き問題という領域に限っても、その論文以降の展開についてはあまり詳しく取り上げることはできませんでした。
ただ、予備知識無しからある論文の内容を理解するという点はそれなりに価値があったのではないかと思っています。
この分野にあまり詳しくない人を想定していたので、哲学に出てくる基礎的な語彙もできるだけ説明するように心がけました。
また、考えの説明だけでなく、なぜそのような考え方が出てきたのかという説明もできるだけ多くしようとしました。
哲学での暗黙の前提を、それを仮定せずに説明しようともしました。
これらをやりきれたかどうかはわからないですが、こういったことは、哲学科の中ではなかなかできないので、
かなり面白い体験だったと感じています。
今回のように話題を絞った長い時間での発表であれば、
そういうこともできるという感覚があったのは今回よかったことだったと感じています。
今後の展望
今回単なる勉強会としては非常に良いものになりましたが、商業的、すなわちキチンとした額を参加者からいただけるかどうかという視点に立てば、個人的には(偉そうで本当に申し訳ないですが)まだ足りないところがあったと思います。
この記事を書いた後に、Yさんとは「今回得られた経験・知識を営利的な活動に活かせるコンテンツにするにはどうすればよいか?」という点で相談する機会を設けるつもりです。
既に数学においては、大人向け数学教室以外にも、営利的な目線に持つプロジェクト(大人向け数学講座のこと)を開始したところであり、
Yさんが望むならば(今のところまた挑戦したいと聞いています)、より参加者、すなわちお金を出していただく人たちの目線にたった勉強会・講座作りを目標として、活動の企画も進めていきたいと思います。
また今回もう1人哲学専攻の博士課程院生にもこの勉強会に参加しもらっており、その人もこの裏難波大學の活動にそろそろ本格的に参加してもらう予定になっています。
このような形で、哲学以外の非数学系の学問においても、啓蒙的な活動に興味ある専門知識を有する方たちと協力しながら、そして理念にある経済支援を最大化しつつ、参加者に満足してもらえるような取り組み・そして仕組みをこれからも作っていきたいと思います。