強制法集中講義のため九州初上陸
去る2018年10月29日から11月2日の5日間に九州大学で行われた強制法集中講義を受講してきました。
その感想も含めて日記にような感じで書いてみました。
簡単な告知は下記公式HPからされていて
担当講師である池上さんのTwitterアカウントにて告知がされており部外者でも参加できるとのことだったので、学生でも研究者でもないし九州いったことないけど自分にとって良い機会だと思ったので受講させてもらいました。
以下の要領でまとめてみました。
講義内容と参考資料
講義テーマは公理的集合論から強制法となっています。
集合と位相の知識を仮定しており、九州大の生徒は単位もとれるみたいでした。
九州大学の数学科には数理論理学専門の研究者が在籍しておらず、私自身も池上さんが何故九州大学で集中講義なんだろう?と思っていましたが、この大学の数学科の教員の方は持ち回りで1年に一回集中講義を開くことがあり、その際の講師は他大学の教員でもよいという制度があって今回集中講義を開く担当になった九州大学の教員の方が学生時代池上さんと同期ということもあっての今回の講義となったようです。
講義形式は主に黒板での板書で、池上さんの手書きノートを元に講義されていました。
手書きノートそのものは公開されてませんが、上記の担当になった教員の方も全コマ参加していたので彼が講義中の黒板を逐一撮影した写真が下記URLにて公開されています。
こちらはリンクを貼ったりしてよいとのことです。
Twitterで宣伝されていたこともあり、初日から結構な数のダウンロードが行われていたらしく担当の方も驚いていました。
九州大学 職員専用ファイル共有システム(Proself) Web公開
たしか一定時間は講義するよう上から言われていたようで、それちょうどになるよう5日間で10コマ、1日2コマずつ各参加者の都合に合わせて開かれていました。
ただ4日目に自分以外にもう1人いた部外の方に向けて池上さんの専門的な話が1時間ほど、そして5日目に講義で間に合わなかった強制法の補足があってそれらの板書は全部は公開されていなかったはず。
講義の内容としては主に5テーマからなり
1.イントロダクション
2.順序数、基数
3.ZFC、クラス
4.集合論のモデル
5.強制法
です。
3.と4.では配布資料もありました。
それも上記リンクより公開されているはず。
必要な定義・事実を列挙するだけでも時間が足らないような内容なので、いくつかの証明問題は課題として単位が欲しい学生はそれをいくつか解いてレポート提出する感じでした。
ただし仮定している知識が素朴集合論と位相空間論だけなので、課題として出される問題はその課題前にある定義を参照すれば解けるような数理論理学の知識が本質的には必要でないものばかりでした。
板書で「課題」と書いてあるのがそれですね。
まぁ数理論理学寄りの研究者がいない数学科の生徒向けに開かれている講義ですので、単位をとってもらおうとするとそうなりますよね。
というかそもそも数理論理学・数学基礎論の専門家が在籍している数学科がそもそもほとんどないんですが。。。
そういう経緯?もあってなかなか九州大学で聞けない内容だからか(それとも単位に飢えた学生が多かったのか)受講生は多かったです。
自分も学部のときに母校で開講されていれば絶対受けに行っただろうなと思います。
参考文献は毎度おなじみの下の2冊(とその和訳)です。Amazonのリンク貼っておきます。
・『The Foundations of Mathematics』(Kenneth Kunen)
藤田先生による和訳はこちら
『キューネン数学基礎論講義』(藤田 博司)
・『Set Theory』(Kenneth Kunen)
同じく藤田先生の和訳はこちら
『集合論―独立性証明への案内』(藤田 博司)
ただしこれに沿って講義をしているわけではないのでどちらかというと課題を解くためのヒントといった感じでしょうか。
各テーマの内容をもう少しとりあげると
「1.イントロダクション」はこれからどういう話をするかということで強制法を用いた。連続体仮説の否定の無矛盾性証明に至る簡単な歴史の紹介といった感じでした。
「2.順序数、基数」はカントールが順序数・基数を導入した経緯を説明しながら、超限帰納法・再帰的定義を扱いつつ順序数・基数を定義していく流れ。今回は数理論理学寄りの知識はなるべく削る予定だったので定義する際にZFCの公理などについてはこの段階では軽く触れる程度(まだ導入してないしね)。
「3.ZFC、クラス」では定義はほとんど板書をせず配布資料を用いての説明重視。簡単な証明などは板書していく感じ。まぁZFCの公理とか等号公理とか推論規則とか書き下すだけで時間かかっちゃいますもんね。あとここらへんは一度学習した人からすると説明してても楽しくないし細かく注意が多いしってことでなるべく省エネでやりたいらしい。内容としては最低限必要な論理学の定義と、ZFCの各公理の紹介、集合論のモデルのV、クラスの扱い方などです。
「4.集合論のモデル」での3.と同様配布資料を配りながらやる感じ。ここで相対化と絶対性、推移モデルなどなど説明。
「5.強制法」は、まず話の流れを説明。モデルの拡大をするさいの注意点(基数を壊さないようにとか)を説明して、強制半順序の定義、具体例、ジェネリックフィルターと基礎モデルとの関係とジェネリック拡大の作り方、強制関係と強制法定理(述べるだけ)実数を増やすための具体的な半順序の説明かな。記入漏れは一杯あると思ってね。
その他には2日ほど講義終了後にプラスαの強制法と他の数学との関わりを池上さんの視点で教えてもらうミニ授業がありました。おそらくここらへんは来年2月あたりの自分が勉強しているはず。多分。
講義以外の体験記
ここでは単なる旅行記的な感じで書きます。
まずは福岡はおろか九州に行くのがはじめてでした。
意外と都市から九州大学伊都キャンパスって遠いんですね。
1,2泊くらいなら4か月前に初体験したカプセルホテルでのいいんですが、5泊6日なのでビジネスホテルにすることにしました。
幸い天神から少し歩くんですが5泊でかなりお手頃な値段のホテルを運よく見つけたのでそこにしました。
天神から伊都キャンパスへの直行バスがあるので、毎日それに乗って通ってました。片道620円なので5日間で結構お金がかかりました。
ただキャンパスの近くにもネット上では全然宿泊施設ないんですよね。。。調べ方が悪いのかなぁとも思ってます。
バスは大体50分くらいかかるので運よく座れたら予習・復習してた感じですね。
車酔いしやすいタイプなので酔い止めはばっちり準備してました。
大きな橋を渡って綺麗で大きな建物や海を見ながらの通学は楽しかったです。
伊都キャンパスはかなり大きいです。
調べたら国内最大みたい。今回の集中講義はウエストっていう建物でやっていたのですが、これも大きい。
この中にいくつの部屋があるんだろうって感じです。
キャンパス内でも高めの建物らしく高階層からの景色は見通しもよかったです。
キャンパス以外ではほとんどホテルの中にいました。
飲み歩くのも計画していたのですが、慣れない長い移動(今まで通勤通学で片道1時間超えることって幸運なことになかったし)や講義の復習(主に参考文献読んでニヤニヤしたり簡単な証明をやり直したり)、お店の売り上げ計算したりとで結局一回も飲みに行きませんでした。
一応ホテルの人から情報誌もらったり、ネットでも検索してみたのですが、正直興味がわかず博多らしいものも含めては一切外食せずに帰ってきました。
いつか普通に誰かと旅行に行くことがあればその時は色々と回ってみたいです。
外飲みはしませんでしたが毎日飲酒する私が5日も禁酒するはずもなく毎日1人で部屋飲みしてました。
初日にチューハイロング缶を4本買ってから、これを毎日続けるとかなりお金かかるし飲み残すともったいないことに気付いて、2日目にはウィスキーの700ミリくらいのボトルを買ってきて、毎日炭酸を買ってきて割って飲んでました(まぁ最初の一杯は少し甘い方が嬉しいので結局毎日ロング缶は1本ずつ買ってたんですけど)。
まさかのホテルにグラスが用意されていなくて、部屋にあった湯のみでハイボール作ってました。
使い捨てでグラスとか買えばよかったんですが、アホなので思いつかず、かつめんどくさがりなのでやりませんでした(ほんまそうすればよかった)。
氷もなかったのですが、冷蔵庫はあったので、そこにウィスキーと炭酸を入れておき冷たさは問題ない感じでした。
最終日は5日間ほとんど連絡してこなった母親から明太子買って来いとLINEが来たので、博多駅のお土産コーナーで色々と物色してました。
てっきり家で食べるのかと思いきや、後日「じゃこ海老の明太子和え」というメニューになって売られてました。
荷物が重くて、しかも最終日はバスでも電車でも座れずかなり疲れていましたが、次の日にイベントでプレゼンしたかったので、USJへ向かう席近くで騒ぐ大学生(みたいな社会人)集団にイライラしつつ眠い目をこすりながらプレゼン作ってました。
ちなみにそのイベント後に、この5日間で栄養が偏っていたことや疲労から熱出しました(知恵熱ではない)。
これから長期の旅に行くときは健康管理しっかりしないとなぁ。
今回素泊まりパックだったから朝食もついておらず、朝急いでることも多くておにぎりだけで済ますことも多かったのも原因かな。
次は朝食にバイキングが付いているようにして、そこでバランス整えるようにしよう。
ともあれ数学以外ではあまりいいことなかったなぁ。
お店の常連さんにおススメの店とか色々と聞いてたんやけどなぁ。残念。
遊ぶ余裕がなかったのもあると思うのでほんまに次は楽しみたい。
勉強になったこと
myグラスを持っていこう!
ではなく、ちゃんと書きます。
コーエンの強制法自体はM1の後半でゼミでやってたんです。
一通り証明をやってみたんですが、各行の論理展開は追えても全体として何を示したのかさっぱりでした。
もちろん啓蒙書やたくさんの専門家主催の勉強会などでおおざっぱに何をどうやって示しているのかは説明できるのですが、自分の中のものになった感覚がかなりなく正直外に向けて「強制法を学んだ」とは口が裂けても言えない感じでした。
なので未だに自専攻が集合論である名乗りづらいのは「強制法もきちんと理解してないのに」という後ろめたさがあるからかも。
そのあと帽子パズルという良いテーマを指導教官より与えられそちらはかなり自分の中に染み込んだ気がし、他の集合論的な結果にも興味が沸いたところで学生は終わってしまいました。
集合論を再び学びなおす基礎作りの一貫として、そして自分の復習として今回は遠かったけど九州まで行きました。
今回意識したのは証明を追うのではなく(これは一度やっているのだから後の自分に丸投げする)、研究者の口から語られる「数理論理学や強制法の気持ち」のようなものを掴み取ることに集中しました。
一度勉強していたおかげで、どれが非形式的な話題なのかの区別がつき、また出てきた定義のイメージがつかないなんてこともなく、上記のように意識していても証明の論理展開は結構追えました。
今回講義を聞いたことで一層何をどう示しているかが自分の中で明確になった気がします。
そしてどの議論が強制法後半でのどの部分に聞いているのかもじっくり聞けたのも良かったです。
では復習はどうするかというと、ノートをきちんととれているのでそれを元に年末くらいから自主ゼミでも開いてみようかと考えています。
レポート課題としての問題の証明を埋めつつ、主張を述べただけで終わった(そうせざるをえなかった)定理なども証明し確かめながら進める感じで。
来年3月までにかなり強制法の理解が進みそうです。
もともと集合論に興味をもったきっかけになった理論でもあるので、今の時間がある時期を利用して納得いくまでやってみたいと思います。
その他勉強になったことたくさんあり、思い出は少なかったですが(毎日ホテルに引きこもっていたし)かなり楽しい旅行になりました。
書き忘れたことたくさんありそうですが、思い出しているといつものように公開が遅くなるのでここらへんで筆を置きます。おしまい。